公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

活動報告

第30回 水環境懇話会(平成24年6月19日)

山口岳夫氏
水道技術経営パートナーズ株式会社 代表取締役
「会社を作ってみた」
-2年間会社を経営してみて感じた「民間会社とはそもそも何か」。そこから官民連携や、役所が作る会社や、水ビジネスの将来を考える-

第30 回水環境懇話会は、水道技術経営パートナーズ株式会社の山口岳夫氏を招待し、会社を経営してみて感じたことを「会社設立までの経緯」、「経営状況の一端」、「民間企業を経営する視点で見た官民の違い」、「民間企業を経営する視点で見た水道業界の常識」等のトピックでご講演頂いた。その後は質疑応答や水ビジネスを話題とした討論を行った。

1.経歴紹介

1991 年に京都大学を卒業し、日本上下水道設計株式会社に入社、主に水道分野を中心にかかわり、2010 年に水道技術経営パートナーズ株式会社を設立された。

また、情報サイト「水道技術経営情報 狸の水呑場」の運営や「水を語る会」の幹事を担当するなど、精力的に活動をされている。

2.講演及び討議内容

日本上下水道設計株式会社に長らく在籍し水道の技術者として仕事をしていたが、経営工学研究所への異動などをきっかけとして経営の勉強に注力するようになった。水道業界において経営に関するコンサルのニーズが高まるであろうと考えるとともに、社内にとどまってもチャレンジの機会が制約されそうだと思えるような出来事があったこともあって、より自由な機会を得るべく起業に至った。「社員がチャレンジできる」「理想の水道を作る」ことを企業理念とし、従来の水道コンサルタント会社とは別の会社を目指すことを基本戦略とした。また、在職中に弱点である海外経験の不足を海外案件への参加等で補完するなどいろいろ準備をしたとのことである。

次に実際に会社を設立する際に必要なプロセスについて、会社を設立するために必要となる定款を初めとした様々な書類、考えつく限り考えたサービスの中から「商品」を考えるプロセス、給与を起点に経営計画を立案する方法などのお話をいただいた。現在、2期の決算を終え、売り上げ構成等経営成績を分析して今後の経営方針を見直しているところとのこと。結局、経営者の「気持ち」を体感できるようになったのが一番の収穫かもしれないとのことである。

続いて、経営を語るうえで欠かせない「資金」に関する基礎的な知識をおさらいしたあと、経営における官民との違いについて資金の役割の差から説明いただいた。民間企業にとっては利益こそが投資のための原資であり、利益を上げることなしにサービスの向上は望めないこと、逆に、公共事業体は法的根拠を信用の源泉とし安価な資金調達ができるものの、利益を目指した経営ができず、故に、失敗の可能性が高いチャレンジに取り組みにくいこと等が指摘された。このように、民間企業と公共事業体は経営の性質や制約が大きくことなることを理解し、「資金提供者が納得するような良質な案件と計画を提示する」「契約にない要求を後出ししない」などの点を意識することで、より民間事業者側の工夫を引き出すことができ、結果としてメリットの大きい官民連携が実現できると結論づけた。

最後に「民間委託をすると料金が下がる」「百年先も使えるような設備投資のために財政措置をする」「日本の技術的優位により海外で収益を上げる」等、の水道業界の「常識」についてツッコミを入れていただいた。

その後の質疑応答・討論では、以下のテーマについて意見交換を行った。

  • 民活がすすまない理由はどこにあるのか
  • 理想の水道とはいったい何なのか
  • 水道サービスの格差は許容されるべきか
  • 海外進出を軌道にのせるための戦略はあるのか
 
講演の様子   討議の様子
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