公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第34回 水環境懇話会(平成26年01月29日)

佐藤 親房 氏
公益社団法人日本水道協会
工務部次長 兼 水質課長

「水道水源における汚染事故とその対応 ~ホルムアルデヒド汚染をめぐって~」

 第34回水環境懇話会は、日本水道協会の佐藤親房氏を招き、平成24年5月中旬に利根川水系で発生した水道水質事故に関してお話頂いた。まず経歴、日本水道協会の業務内容についてお話頂き、次に本テーマの水質事故の原因、過去の事例、さらに水質事故への対応の強化についてご説明頂いた。その後、質疑応答及び討論を行った。

1.経歴

 昭和50年に東京都水道局に入局し、水質検査に従事された。その後港区役所保健所にて環境衛生監視員に従事され、下水道局にて排水施設の普及等、環境保全局にて水環境基準の調整等を行い、水道局を経て現職の日本水道協会に勤務されている。

2.講演及び討論内容

 まず日本水道協会の業務内容として、水質検査方法や緊急時も含めた水質測定方法を議論する水質試験方法等調査専門委員会、薬品の規格等を議論する水道用薬品及び資機材の衛生性調査専門委員会、水質検査機関の品質保持を図る水道GLP 等についてご説明頂いた。

 次にホルムアルデヒドによる水質事故の概要、原因についてお話頂いた。平成24年5月中旬に利根川水系の浄水場においてホルムアルデヒドが水道水質基準値を超えて検出され、広範囲で取水を停止し、千葉県内の5市では断水が発生した。ホルムアルデヒドは原水では検出されず、原水中のヘキサメチレンテトラミン(HMT)が浄水処理過程で塩素と反応することで生成されたと考えられている。このHMTは、埼玉県内の化学メーカーが群馬県の産業廃棄物処理業者に委託した廃液に高濃度に含まれており、適切な処理が行われず、多量に利根川に流入したことで、本件の水質事故が発生した。

 続いて水質事故の過去の事例をご紹介頂いた。平成20年3月に1,4-ジオキサンが東京都の浄水場で検出されたことを受け、利根川水域の水質調査を行った結果、利根川の広範囲で検出された。原因は1,4-ジオキサンが含まれる廃液を廃棄物処理業者が下水道に投入したが、廃棄物処理や下水処理では除去されず、利根川に流入したためと考えられる。

 昭和45年には利根川水域にて玉ネギ腐敗臭事故が発生した。この事故もホルムアルデヒドによる水質事故と同様、原水に検出される物質ではなく、原水中のシクロヘキシルアミンが浄水処理過程で塩素と反応することで腐敗臭物質が生成された。このような事故を踏まえて利根川水系を共同で監視する対策をとることとなった。利根川水系の群馬県、埼玉県、東京都、千葉県が毎月かつ異なる週に水質検査を行い、情報を共有することで、ホルムアルデヒドが浄水において水質基準値を超えていることを逸早く検知できたとご説明頂いた。

 また、事故時に浄水場の運転を継続した事例もご紹介いただいた。高度浄水処理を行っている浄水場では、オゾン処理によってHMTがホルムアルデヒドや易分解性有機物に変化し、生物活性炭によって除去されたため、ホルムアルデヒドは高濃度では検出されなかった。備蓄水を持つ浄水場では、水質に問題の無い浄水による希釈を行うことで、ホルムアルデヒド濃度を基準値未満にして対応した。

 さらにホルムアルデヒドの水質事故を受けて、今後取り組んでいくべき課題や強化していく内容についてご説明頂いた。

  • 浄水処理過程と結びつくことで問題になる前駆物質の整理、情報提供
  • 万が一の水質事故に備えて、危機管理マニュアルの作成や明確な役割分担
  • 短期的な水質異常時における摂取制限による給水継続の考え方の整理
  • 迅速かつ効率的な検査方法の開発
  • 協力体制の構築における構成団体間での各種調整や情報管理方法の整理
  • 事故発生時の住民への広報の手段の検討(広範囲かつ正確な情報伝達)

討論では水質事故に対応する方法や利根川水域で行われている共同の水源監視方法について活発な議論となった。また、水質基準値を超えた場合における水質的に問題の無い浄水の希釈や制限つきの給水による対応、ホルムアルデヒドによる水質事故における水道事業体から化学メーカーへの訴訟の是非等について議論が広がった。さらに、農薬の排水管理の規制に関する今後の展開をお話頂いた。

講演の様子
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