2009年度 日本水環境学会東北支部講演会報告
〜水道水源の保全・再生に向けた新たな取り組み〜

 主 催   (社)日本水環境学会東北支部
 日 時   2009年5月29日(金)14:30〜17:00
 場 所   仙台市戦災復興記念館 5F会議室

 報告者   東北支部幹事 成田 修司(秋田県健康環境センター)

 2009年度日本水環境学会東北支部の講演会が仙台市戦災復興記念館で開催されました。講演会は,東京大学大学院工学研究科 教授の古米 弘明 先生を講師にお迎えし,「水道水源の保全・再生に向けた新たな取り組み」という演題で講演して頂きました。会場は,ほぼ満席の大盛況で,参加者は先生のお話にじっくりと耳を傾けておりました。

          
                  講演中の古米先生

 先生は神奈川県の水源環境の取り組みを例にとりながら「水道水源の保全・再生」というテーマの話を進められました。神奈川県の上流部は群馬県ですが,神奈川県ではダムを造り,群馬県を経由した水を堰き止め,水源・水量を確保してきました。しかし,近年,生活排水等を含む群馬県の河川水は栄養が豊富なこともあり,ダムで堰き止めた水には,アオコが大繁殖しました。神奈川県では,このアオコや河川水の対策のために,エアレーションシステムや下水処理施設をつくり,膨大なお金をかけて対策を行っております。そのような現状の中で,神奈川県が行った取り組みは「かながわ水源環境保全・再生施策大綱」の策定を行い,5ヶ年計画事業を立ち上げました。その財源は,個人県民税の超過課税として県民から徴収するのですが,「神奈川県のすごいところは,これからなのです。」と,先生はおっしゃいます。何がすごいのか?というと,水道水源保全・再生という活動に県民を直接参加させる「県民会議」という組織をつくったこと,その組織で話し合ったことを事業に反映させるように機能させたことです。その組織は,企業・団体から10人,有識者10人,県民10人からなり,県民の方は論文と面接で選ばれた皆さんです。先生が強調したのは,「水源のために何かをしたいをいう高い志・熱い思いをもった県民が,その県にはどの位いるのか?ということが,その県のポテンシャルになるのです。」というところです。このようなポテンシャルがあって,前述の再生実効5ヶ年計画があるのですが,その計画の柱となる考え方は,先見・予見力であると説明されました。「長期的な視点で子や孫の代まで,水源環境において将来起こりうるリスクも想定しながら,わかりやすく示す。このような提示の仕方をしないと県民が能動的に動くことのできる水源再生にはならない。」と,まとめておりました。
          
                       会場の様子

 最後に,水道水源の保全・再生へ向けたメッセージとして印象深い言葉がありましたので,ご紹介します。先生は『流域に住む住民を「流域の民」と名付け,その人達が持つ連携力,住民を取り込む力,広報力等の「力」を結集し,最大限の力を発揮するように努力していく,そこには"熱さ・情熱が必要"』と熱く語っておりました。
 講演後の討論も熱を帯びて盛り上がり,予定時刻を越える大盛況の中,盛大な拍手と共に,講演会は終了しました。