公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

活動報告

第31回 水環境懇話会(平成24年10月11日)

山村 寛氏氏
中央大学理工学部 都市環境工学科 特任助教
国際水環境工学人材育成プログラム 産学官連携コーディネーター
「膜分離技術の課題と未来」
-膜分離技術はどんなところで使われていて、これからどんなところで役に立つことが予想されるか?-
-分離単位操作の課題と、今後の技術展開の展望について-

第31回水環境懇話会は、中央大学理工学部都市環境工学科の山村寛氏を招き、学生時代の研究テーマである膜ファウリングや、膜会社の分離膜開発、膜分離技術の課題と挑戦に関してご講演頂いた。その後、質疑応答を行った。

1.経歴紹介

 渇水の多い香川県に生まれ育ち、2008年に北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻博士課程修了した後、旭化成ケミカルズに入社し、2011年から中央大学理工学部に勤務されている。

 「渇水被害に苦しむ香川県を助けたい。」という一貫とした信念のもと、膜分離技術を追求されている。

2.講演及び討議内容

 学生時代、効率的な膜選定プロセスを確立する目的で、原水水質と膜材質に着目し膜ファウリングに影響を与える因子を探求された。本研究で膜ファウリングに影響を与える因子として、原水水質からは親水性で且つ高分子の有機物成分、膜材質からは有機膜の代表的な原料であるPVDFとPEの比較を通して、高分子有機物のフッ素基がそれぞれ大きな影響を与えうることを明らかにした。

 博士課程修了後、「膜を作りたい。」との思いで、旭化成ケミカルズに入社した。膜会社の分離膜開発では、顧客コスト(=膜モジュール代÷(ろ過流束×膜寿命))削減を念頭に置き、膜ろ過流束と膜寿命を最大化することに注力された。膜ろ過流束を上げるためには、膜抵抗や汚れ抵抗を下げることが必要であり、膜寿命を上げるためには、機械的強度と化学的耐性を上げることが必要であるとお話を頂いた。

 その後、膜分離技術を取り巻く世界の動向に関してご説明頂いた。日本の膜分離技術は世界で先行していたが、2000年代から、中国や韓国の特許件数や学会論文件数が著しく伸びているとのこと。日本の膜会社が世界市場で戦うために、①大幅なコストダウン、②イノベーションの必要性、③日本の膜会社同士による特許の共有化、の3点に関してご提言頂いた。

 世界各国の膜分離技術の進展スピードは上がっているため、企業の研究開発では、数年以内に目に見える成果が現れなければ打ち切られる事業が多い。これらの事業には技術進展のポテンシャルが秘められているため、大学側が基礎研究による成果を出来る限り早く社会へ還元することで、企業の研究開発の成果が少しでも早く表れる土台を造ることが技術発展のために必要であるとお話頂いた。また、将来の世界はどのようになっているのか考え、20,30年以上先を見据えた研究視点が必要であるとのことである。現在は、将来の資源枯渇化の回避を目的として、膜を用いたバイオリアクター単細胞性藻類によるバイオ燃料生産や下水からのエネルギー回収技術の開発に関する研究に注力されている。

 この他にも、現在の水処理の課題を解決するため、下水処理水からの資源回収に関する研究をはじめとした下記のような研究テーマに取り組まれている。

  • 1.PVDF膜の再利用方法の検討
  • 2.藻バイオリアクターによる下水からのエネルギー回収技術の開発
  • 3.安くて安定した埋め立て浸出水の処理
  • 4.膜ファウリングの可視化とモデリング
  • 5.親水性多糖類吸着剤の開発

 質疑応答では、膜モジュールの標準化や膜分離技術を取り巻く世界の動向等に関して、聴講者から質問があった。

 膜モジュールの標準化に関しては、膜会社にとってメリットがないため、まだ標準化する段階まで進んでいないとのことである。

 現在、膜の費用は安くなったものの、高価であるという印象を持つユーザーが少なくない。今後はプラント会社と膜会社が連携して膜処理設備全体のコストを下げることが課題であると話に挙がった。

 上記に関連して、「膜ろ過は従来の砂ろ過よりシステムとして費用が抑えられる」という話をよく聞くので、この面からのPRをより強化したほうが良いのでは、という話題もあった。

 今回は有機膜を中心にお話いただいたが、無機膜に対する印象を問う質問があったアカデミックな知見が有機膜に対して少ないため、これから研究をすすめていきたいとのことである。

 
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