公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第33回 水環境懇話会(平成25年10月11日)

井原 一高氏
神戸大学 農学研究科 准教授
食料共生システム学専攻 農産食品プロセス工学研究室

「電気化学反応を利用した抗生物質の分離と分解」

 第33回水環境懇話会は、神戸大学農学研究科の井原一高氏を招き、研究内容である動物用抗菌剤に関してお話頂いた。まず動物用抗菌剤の使用状況と水環境汚染の現状について、次に電気化学反応および磁気力による分離について、さらに電解酸化法による分解処理についてご説明頂いた。その後、質疑応答を行った。

1.経歴紹介

 学生時代に微生物の計測に関する研究を行い、大学院修了後、3つの大学を経て、2006年から神戸大学に勤務されている。生物資源プロセス工学、畜産衛生工学を専門分野として、日々研究に従事されている。

2.講演及び討論内容

 まず動物用抗菌剤の使用状況と水環境汚染についてお話頂いた。畜産業において、疾病の予防や治療及び成長促進のために、動物用抗菌剤(抗生物質)が使用されている。そのため畜産施設から河川水への抗生物質の拡散が見受けられている。そうした背景から、抗生物質使用後の畜産排水に対する処理技術を研究されており、研究開発中である電気分解反応を用いた抗生物質の分離及び分解方法についてご説明頂いた。

 抗生物質の分離方法は、磁気シーディングによって抗生物質の磁気力を高め、磁性分離を用いる手法である。磁気シーディングとは磁性を分離対象物に付与することであり、その手法として電気化学磁気シーディング法を開発された。電気化学磁気シーディング法とは、鉄電極を用いた電気化学反応により供給された鉄イオンと抗生物質がキレート結合した金属錯体に強磁性物質を付与させる方法であった。この手法は金属錯体を形成することが必須であるが、多様な抗生物質に対応可能で、また薬物相互作用の情報から検討しなくても判断できるとのことであった。さらに磁性ビーズ(強磁性物質)を用いた抗生物質の連続磁気分離試験により72%除去を確認できており、本手法による磁気分離法が有効であるとご提言された。

 抗生物質の分解方法では、不溶性電極を用いた電解酸化法を提案された。物質分解の原理としては、陽極で生成したヒドロキシルラジカル等による直接酸化反応と、電極間のバルク中で電解によって生成した中間生成物が酸化剤として働く間接酸化反応によるものであった。この手法により、テトラサイクリン系抗生物質に対して優れた分解性をもつこと、分解は無機化ではなく中間生成物へと分解されること、抗菌活性の低下を明らかにしたとご説明頂いた。

 質疑では技術やコストに関わる話で活発な議論となった。技術面では、磁性シーディングを選択的に抗生物質に添加する手法、マグネタイト(強磁性物質)の再生利用などに議論が広がり、またコスト面では畜産業では排水処理にお金をかけられない背景があることから、出来るだけ低コストの処理の必要があることをお話頂いた。

講演の様子
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