公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第35回水環境懇話会(平成26年4月16日)

平山 修久 氏
独立行政法人国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 主任研究員

「大規模災害に備える -東日本大震災の経験を踏まえて-」

 第35回水環境懇話会は、国立環境研究所の平山修久氏をお招きし、阪神・淡路大震災や東日本大震災から学ぶべきことや、将来の大規模災害に向けて何をするべきかについてお話頂いた。目標による管理に基づく災害対応の考え方や、阪神・淡路大震災の際の電話問合せからみた市民の情報ニーズに関してご紹介頂き、コントロール感を付与した情報提供や危機管理の重要性についてご説明頂いた。その後、質疑応答を行った。

1.経歴

ご専門分野は水道工学、防災・危機管理、災害環境工学。京都大学大学院工学研究科環境工学専攻博士課程修了後、阪神・淡路大震災震災記念 人と防災未来センター主任研究員を経て、平成20年から京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻GCOE特定准教授に従事され、平成25年に現職に着任された。

2.講演及び討論内容

 まず東日本大震災と阪神・淡路大震災を比較し、地震の種類や主な死因に相違があることを確認し、巨大災害における災害対応として上手くいったこと、上手くいかなかったことを整理して頂いた。上手くいったこととしては、災害時の相互応援に関する覚書や地震対策マニュアル策定指針、耐震化技術を挙げられた。上手くいかなかったこととしては、津波被災地域への対応や目標による管理に基づく災害対応、情報提供などを挙げられた。

 「東日本大震災では、津波被害がこれほど大きくなるとは想定していなかった。しかし、平成16年にスマトラ沖地震が発生し、津波被害について考えるチャンスはあった」と述べられ、災害後に想定外という言い訳をしないようにしていかなくてはいけないと強調された。

 次に目標管理に基づく災害対応(インシデント・コマンド・システム、ICS)についてご説明頂いた。何のためにそれをするのか、 組織の目標や方針をあらかじめ設定し、これらの目標を達成するために(災害対応)業務、人的・物的リソース、情報を管理することで、 状況認識の統一を図ることができるとご紹介された。それにより、災害時には外部からの応援もしやすくなり、具体的な対応も権限委譲することができるようになるとのことであった。 この目標による管理の考え方は、民間企業での通常業務の際には行っていると思うので、災害対応の際もこの考え方していくべきであるとご提案された。

 続いて阪神・淡路大震災の際に神戸市水道局で受け付けた市民の声を、神戸市と京都大学が共同で整理した結果をご紹介頂いた。断水時の要望別の電話件数を比較すると、復旧目途に関する問い合わせが一番多く、次に応急給水や通水不公平についての問い合わせが多かった。復旧目途に関する情報提供不足がうかがえると述べられた。新潟中越沖地震では、応急給水についての情報提供はかなり改善されてきた印象があり、また通水不公平については、何が平等か不平等かの判断が難しい所があるとのことであった。また、電話問い合わせの内容も時間的に変化していくことを例に挙げ、時間的側面からも情報提供について見ることも大切であるとお話頂いた。 経験や教訓について、全ての災害で共通の事項なのか、個別災害の事項なのかをしっかり見極め、共通なものは全国で共有していくべきであるとご説明頂いた。

 そして応急給水に関しては飲用水と同様にトイレ用水の確保が重要になるとお話頂いた。トイレに使う水がないのを我慢できる日数は1日未満が最も多いというアンケート結果を例に挙げられた。また、応急給水はペットボトルで行う場合が多いが、ペットボトルの水を雑用水として使うのに抵抗を感じる人もいることをご紹介頂いた。

 さらに災害初動時における水道事業体のクライシスコミュニケーションが上手く行われていない点をご指摘頂いた。新潟中越地震や2005年台風14号の宮崎市水害を例に挙げ、応急給水に関する情報は以前に比べて充実してきたが、復旧目途や断水状況に関する情報が足りず、情報ニーズに対して情報提供が大きく足りていないという状況をご説明頂いた。

 災害時の事業体への信頼確保には、コントロール感を付与した情報提供が必要である。つまり需要者の置かれている状況に対して、次善の対応策や今後の状況予測や新たな具体的な対応に関する状況提供が重要であると強調された。水道事業体は情報提供をより積極的に行い、復旧状況なども“こんな風に頑張っています”とアピールすることで節水等の理解を求めていくべきであると述べられた。地区と公共インフラについて復旧状況に応じて色を塗り分けた表を作成するといった復旧状況が一目でわかりやすい情報提供の事例をご紹介頂いた。

 またBCP(事業継続計画)についてもお話頂いた。「強靭」というキーワードがよく出てくるが、強靭とは被害を小さく留めるという意味だけではなく、復旧をできるだけ早く行うという意味も持つことを強調された。BCPの復旧曲線をいかに早く回復させるかが重要であり、それにはハード面だけでなく、ソフト面も考えていく必要があると述べられ、応急給水用ポリタンクでの冬期屋外直射日光下での残留塩素の実験結果などもご紹介され、こういったデータを有効に利用して、災害時の水質のリスク管理も行っていかなければいけないとお話頂いた。

 津波被害地域への応急給水についても、いつまでも給水タンク車を利用するだけではなく、日本の高い技術力を活かして、もっとテンポラリな膜処理設備や簡易生物処理設備などを導入する検討を進めれば良いのではないかというご提案もあった。

 質疑応答の際にも、危機管理は「過程」であり、作る→実行→見直しを繰り返し行うことが重要であると強調されていた。危機に瀕すると、普段やっていないことは絶対にできないので、年に1回でもいいので(防災の日など)、職員自らBCPの検証を行うことが大切であると述べられた。BCPを作ることで終わらせず、どう実践性を持たせるかがポイントになるとまとめて頂いた。

講演の様子
TOP