公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第37回水環境懇話会 議事録(平成27年2月27日)

高橋 千里 氏
合同会社スマートウォーター 代表社員

「将来に向けた上下水道事業の在り方について」

 第37回水環境懇話会では、合同会社スマートウォーターの高橋千里氏をお招きし、民間企業(産)の側からの上下水道事業の事業モデルや事業戦略、広域連携のあり方などについてお話頂いた。ご講演の中でケーススタディとして、(施設統廃合が難しいことから一般には広域化の効果が限定的と考えられる)北海道のような広大な土地でかつ人口密度が低い地域を例にとり “もし明日から水道法等の適用が緩和されるとしたら、あなたならどう水道事業を広域化していくか”という問題を参加者に出題し、全員から意見を聞く場面もあった。 最後に、質疑応答を行った。

1.経歴紹介

 石川島播磨重工業(株)(現、株式会社IHI)に入社後、原子力事業部にて EPC、技術開発、リスク評価、輸出営業などに従事され、その間、日本原子力研究所(現、(独)原子力研究開発機構)にご出向され、実証試験施設のオペレーション管理・改造等を経験された。
2003 年 8 月ヴェオリア・ウォーター・ジャパン(株)に入社され、広島市の下水道包括(2006 年 4月~2009 年 3 月)の受託に伴い中国営業所所長に着任された。
 人口減少・高齢化社会を迎えるなか、上下水道事業を持続可能とする「スマート・ウォーター・プロジェクト」を提案。この推進組織として、有志らと 2010 年 6 月に(合)スマートウォーターを設立され現在までご活躍されている。

2.講演及び討論内容

 まず商品自体の宣伝ではなく、商品や企業のイメージ戦略のためのテレビCMについてご紹介された。一般消費者向けのビジネス(B to B)と上下水道のような行政を相手とするビジネス(B to G)では購買メカニズムが異なるため、イメージ戦略だけが重要なわけではないが、PPPを推進していくためには自分たちが社会に伝えているメッセージも大切との説明があった。関連して、民間の上下水道事業において競合に勝っていくためには、技術や資金調達の面だけでなく、次の10年で何を目指すかといったビジネスモデルと戦略が大切になっていくとご説明された。
 一般に株式市場で評価されるのは金銭的な利益だが、国や地方自治体が社会的便益や戦略的便益を全く考慮しないわけではないので、いろいろの便益の観点からのビジネスモデルを立てるのも良いとご提案があった。

 次に、上下水道事業の効率に影響するのは規模というよりも、事業密度であるとご説明された。広域化の本当の意味を、実際の自治体の広域化案の例を交えながらご説明され、下図(図1)の☆の領域を目指すことが望ましいことを説明された。

図1


 最後に、ケーススタディとして北海道のような広大な土地でかつ人口密度が低い地域を例にとり “もし明日から水道法など現行法規等の適用を緩和して良いことになったとしたら、あなたならどう水道事業を広域化していくか”という問題を参加者に出題された。参加者全員が回答し、水質基準の緩和による施設の小規模化や、大学などとの連携強化によるテスト技術の積極的な導入、配水をやめて住民に水を直接配るなどといった様々な方法の意見が出た。短い間に色々な意見が出たことからも、もっと上下水事業の広域化についての中身の議論をしっかり行っていくべきとご提案された。

ご講演の様子
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