公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第51回水環境懇話会 議事録(令和3年11月24日)

浅見 真理 氏
国立保健医療科学院 生活環境研究部
上席主任研究官

 第51回水環境懇話会では、国立保健医療科学院の浅見真理氏をお招きし、小規模水供給システムの現状と課題、課題に対する取組みについてお話いただいた。その後の質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われた。

1.経歴紹介

1993年に東京大学大学院 都市工学 修了後、国立公衆衛生院、厚労省厚生科学課で危機管理等を経て、現職に至る。現在は水質リスク管理、小規模水道、国際協力の研究と研修、行政支援などに従事されている。

2.講演及び討論内容

 小規模水供給システムについての基礎、海外の動き、さらに国内の状況について、技術、水質また予算上の課題について実例を交えながらご説明いただいた。

①小規模水供給システムの基礎
国内の小規模水供給システムの定義や、国内外の研究動向などについてご説明いただいた。
  • 国内の水道・水供給システムは給水人口101人以上の水道事業のほかに、100人以下の飲用水供給施設や飲用井戸などの「小規模水供給システム」がある。
  • 水道事業の中でも給水人口101人以上5000人以下のものは簡易水道に区分される。
  • 簡易水道事業はこれまでの町村合併、水道ビジョン、新水道ビジョン、広域化により合併・統合が進み、上水道事業に統合された事業も多い。
  • 小規模水供給システムについては水道法適用外であり、その実態すら明らかではない。
  • 近年の健康影響発生水質汚染事故の多くは小規模水供給システムで起こっている。
  • 科学院を含む研究グループでは「小規模水供給システムの持続可能な維持管理に関する統合的研究」(令和2年度厚生労働科学研究費補助金)を実施中である。
  • 海外においても小規模水供給システムに関する研究、施策の実施は活発になっている。2021年の8月30日~9月2日に実施されたEPAの小規模水供給システムに関するWebinarでも2000人程度が参加するなど賑わいを見せた(末尾にリンク)。
  • ②国内小規模水供給システムの課題と解決策
    国内の小規模水供給システムの技術、水質また予算上の課題と解決策について実例も交えながらご説明いただいた。
  • 小規模水供給システムにおいては、施設の老朽化、維持管理の困難さ、水源の水量減少、高濁等の水質悪化、配水システムの維持の困難さ、財政逼迫、自治体からの指導・助言等の不十分さなど、多くの課題を抱えている。
  • 東海地方のある市における174の飲料水供給施設及び民間簡易水道施設について、現地で調査を実施された結果では、日常の水源、設備の維持管理が困りごと第1位、台風・大雨に伴う水質悪化が第2位であった。
  • 施設・設備・技術上の課題を解決するための方策としては、取水口の詰まりの問題が解決できる取水スクリーンや、濁度にも対応できる凝集ろ過装置、膜ろ過装置、上向流式砂ろ過装置(科学院試作品)、クリプトや細菌汚染の対策となり、塩素管理の手間が省略可能なUV-LEDなどが挙げられる。
  • 特に上向流式砂ろ過装置は、流束:5 m/dで上向きに通水することで、ろ材の表層のみではなく、ろ材全体を有効に使えるため、洗浄頻度を下げることができ、維持管理が容易になると期待される。また、この砂ろ過装置とUV-LEDの組み合わせによって、大腸菌を5logs除去することが可能であり、小規模水供給システムの選択肢の一つになると考えている。
  • 水質上の課題の解決のためには、水道法適用外である小規模水供給システムにおいては、水質が分からない場合は水質検査、変動が大きい場合は対策を実施することが重要となる。
  • 講演者らの近年の調査において、小規模水供給システム(189例)を水源と処理方式をもとに類型化したところ、表流水の影響を受けない安全な水源を有し、消毒も不要な群から、表流水の影響を受け、ろ過・消毒が必要な群まで、6つの群に分けることができた。
  • これらの小規模水供給システムについて、給水人口と事業収入の関係を解析したところ、概ね群によらず、給水人口と事業収入は比例し、給水人口あたり事業収入は10,000円/年/人となった。ただし、表流水交換があるような水源を利用しているが消毒をしていない群において、人口あたり事業収入が少ない、すなわち本来お金をかけないといけない水源であるのにお金をかけていない例が散見された。
  • 表流水による原水汚染リスクが高い群については、水質検査の実施が望まれるが、仮に水質検査を適切に実施する場合には、現状の事業収入を大きく超える水質検査費が必要であると推算された。
  • 予算上の課題を検討するため、単位配管延長(m/給水人口)と給水原価(円/m3)の関係について、法適用水道と非法適用水道の比較を行った。いずれも、単位配管延長と給水原価は比例関係にあったが、法適用水道の単位配管延長は30 m/人未満であったのに対し、過疎地を中心に普及している非法適用水道においては、30~80 m/人と、非常に長く、給水原価も300~1,200円/m3と高かった。
  • 過疎地の簡易水道について、地方別に給水原価、資本単価を調査したところ、山間の過疎地が多い近畿地方がいずれの指標も最大となった。
  • ③今後の方向性
  • 小規模水供給システムの今後について、以下のように単位配管延長ごとに方策が異なるのではないかと考えている。
  • 概ね30 m/人以下:浄水施設を効率化し、管路を整備。地域の核となる施設とする。
  • 概ね30~100 m/人以下:簡易配管、災害用浄水装置、各戸浄水装置など含め柔軟に対応。
  • 概ね100 m/人越え:運搬給水を含めて検討。
  • 処理方法については、管路長によらず、様々な選択肢の中から選択すればよい。消毒は塩素処理を基本としつつも、UV-LEDの適用も検討するとよいのではないか。
  • 水質検査については、自治体により実施されるのが望ましい。自前で実施の場合は、検査費用が事業費の30%程度以内に収まるのが理想ではないか。
  • 小規模水供給システムの更なる将来ビジョンに関して、維持管理しやすい浄水施設への更新、地域水道サービスとして共同・委託等による運営、ガス、ガソリン、医療、買い物、宅配など地域包括ケア事業との連携などの方策も考えられる。
  • 特に他分野との共同・協業による小規模水道供給システムの維持管理モデルは有望であり、模索したい。
  • これからも恒常的な小規模水供給システムに関する検討を進める必要があり、オンライン等でグッドプラクティスを共有する機会があるとよいのではないか。
  •  質疑応答においても今後につながる活発な議論がなされた。一部として、以下を挙げる。
  • 調査事例で、困りごとに塩素に関する事項が挙がっていなかったが、その理由は?
    ⇒水道法適用外の施設などで、塩素の匂いが好ましくないなどの理由で注入していない場合もあるため、困りごとの中にはないが、実際には補充に手間がかかっている事例もあると思う。水質的に必要と判断される水源を使用している場合でも、「これまで大丈夫だったから」という理由で注入していないケースもある。また、塩素を使っている場合においても、塩素の補充の手間や、塩素の劣化、塩素酸に関する問題などがある。それらの点に鑑みて、UV-LEDの適用には期待をしている。
  • 水源の水質の問題がクリプトスポリジウムなどのみであれば、各家庭で浄水器をつけるだけでもよいのではないか。
    ⇒家庭用浄水器も適切に選定、管理されなければ、余計な飲用水質悪化を招く。浄水器の適用も選択肢ではあるが、適切な管理とセットで検討が必要と感じる。
  • 雨水の利用や、家庭内で水再利用システム、飲用水の宅配などを組み合わせて、小規模水供給システムからの配水に頼らない仕組みは考えられないか。
    ⇒雨水利用については、安定性に課題がある。散水等に使われているところはあり、水再利用の家といった提案もなされているが、清澄な水の確保には、量的考察とエネルギーが課題になっていた。いずれにせよ、これまでの水道とは違う観点を持って検討することが必要な場合もあるのではないか。
  • 小規模水供給システムで何かトラブルが起こった場合、設備の更新について技術や手続きなどに関する相談がしたい場合は、どこに問い合わせればよいか。
  • 地域の技術者が不足して、相談先が少なくなると予測される。対応できる体制を早々に構築すべきではないか。
    ⇒基本的には地域の保健所に相談していただきたい。保健所経由で適切な業者等を紹介してくれる場合がある。そもそもの相談先(ファーストコンタクト先)が分からないという方も多いので、科学院では講座の実施やホームページなどが効果的ではないかと考えている。また、各地域においては、人伝ての情報共有(口コミ)や保健所の巡回なども効果的と思われる。
  •  参考サイト
  • Agenda and Recordings for the 18th Annual EPA Drinking Water Workshop (Virtual)
    https://www.epa.gov/water-research/agenda-and-recordings-18th-annual-epa-drinking-water-workshop-virtual
  • 講演中の様子(Zoomにて開催)
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