公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第58回水環境懇話会 議事録(令和6年6月12日)

高部 祐剛氏
鳥取大学 工学部 社会システム土木系学科 准教授

 第58回水環境懇話会では、鳥取大学の高部祐剛氏をお招きし、リン回収と汚泥処理の同時達成を目的としたハイブリッド型電解晶析法の開発についてご講演頂いた。その後の質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われた。

1.経歴紹介

 2011年5月に京都大学大学院工学研究科で博士号を取得。2011年6月に京都大学大学院地球環境学堂の特定研究員、工学研究科の助教を経て、2014年4月に土木研究所材料資源研究グループの研究員に就任。2016年4月からは鳥取大学工学部社会システム土木系学科の助教に着任され、現在は同学の准教授として下水汚泥からのリン回収に関する研究を含め、下水道からの資源回収・再生可能エネルギー生産に関する技術開発を中心に循環型社会を実現するための研究に従事されている。

2.講演内容
①背景
  • リン鉱石は世界で遍在しており、日本ではその全量を輸入に依存している。下水中には輸入量の約10%のリンが含有していると試算されている。
  • 平成27年5月の下水道法改正により、「公共下水道管理者は、発生汚泥等の処理に当たっては、脱水、焼却等によりその減量に努めるとともに、発生汚泥等が燃料又は肥料として再生利用されるように努めなければならない」とされている。

  • ②ハイブリッド型電解晶析法
  • ハイブリッド型電解晶析法は、電解晶析法によるHAP析出でのリン回収と、陽極で発生するO2ガス・陰極で発生するH2ガスによる汚泥の浮上濃縮を組み合わせたプロセスである。
  • 文献調査の結果、電解晶析法による浮上濃縮では汚泥体積の90%減少が可能、電解晶析法によるリン析出ではリン酸の70%除去が可能という報告がされている。
  • しかし、濃縮・析出効率を見ると、リン析出は汚泥濃縮の16倍の電流×反応時間が必要となる。つまり、ハイブリッド型電解晶析法の開発には、リン析出反応の効率を1オーダー高める必要がある。
  • リン析出反応の効率を高める上での課題は2点あり、(1)陽極で発生するH+と陰極で発生するOH-が結合し、OH-のごく一部のみしかリン析出で消費されないという点、(2)下水中に存在するCa2+が不足している点がある。

  • ③貝殻浮遊型電解晶析法の開発
  • リン析出反応の課題に対して、大学時代に二枚貝を用いたPOPsモニタリングに関する研究を行っていた背景もあり、主成分が炭酸カルシウムであり廃棄される貝殻に着目した。
  • 粉砕した貝殻を汚泥濃縮分離液に添加し、水中で浮遊させる貝殻浮遊型電解晶析法を開発した。
  • 陽極で発生するH+と陰極で発生するOH-が結合する課題については、貝殻の溶出でH+を消費させることで、OH-を蓄積させ、OH-をリン晶析に利用できるようにした。下水中に存在するCa2+が不足している課題については、陽極で発生するH+により貝殻を溶出させ、貝殻由来のCa2+を水中に供給できるようにした。
  • 上記のコンセプトのもと実験を行ったところ、貝殻添加効果は限定的であった。汚泥残渣と貝殻が電気的引力により吸着したのち、発生するガスにより汚泥残渣と共に貝殻が水面に浮上し、貝殻が陽極に接近できなかったためと考えられる。浮上した汚泥を除去した後、再度貝殻を投入すると、リン析出反応が促進されることを確認した。
  • 貝殻浮遊型電解晶析法では、貝殻添加によるリン析出反応の促進を確認することができたが、課題として、(1)汚泥と貝殻が分離して存在する状態の形成が必要であること、(2)汚泥濃縮との同時達成にはリン析出反応の更なる効率化が必要であることがわかった。

  • ④貝殻充填型電解晶析法の開発
  • 貝殻浮遊型電解晶析法の課題に対して、通電が可能かつ粉砕貝殻の保持が可能なホルダを作成し、ホルダに陽極を挿入した。
  • 汚泥と貝殻が分離して存在する状態の形成が必要であるという課題については、貝殻をホルダ内に保持し、汚泥と分離することで対応した。浮遊型で貝殻が低濃度に分布するという課題については、陽極近傍に貝殻を高密度に充填することで対応した。
  • 貝殻を充填することで、貝殻を充填していない場合に対してリン酸除去量が21.9倍に向上し、ほとんどのリンが水中で析出した。さらに、リン除去に要する消費電力の観点でも10倍以上の改善がみられた。
  • 連続実験装置を用いて余剰汚泥を流入水として検証した結果、余剰汚泥のTSが5.2 g/Lに対して浮上汚泥のTSは30 g/L以上となり、発生ガスによる浮上濃縮も同時に達成することができた。
  • 操作条件として、電流値によりリン析出、汚泥濃縮性は変化した。検証した実験装置では0.25 A、0.5 A、0.75 Aと電流値を上昇させると、汚泥濃縮性は向上したが、リン析出に関しては0.25 Aに対して0.5 Aは増加したが、0.5 Aと0.75 Aは同等であった。
  • 析出物の回収性については、撹拌を行うことでリン結晶の成長が促進し、析出物の沈降性が向上する。

  • ⑤まとめ
  • リンの析出を汚泥濃縮と併行して行うという、下水中リン資源の有効活用に向けた新たなコンセプトを提案することができた。
  • 3.質疑応答
    質疑応答においては活発な議論がなされた。その一部を以下に挙げる。
  • 電気分解の過程でH2とO2が出てくると思うがヘッドスペースの組成はどうなっているか。
  • ⇒未だ確認できていない。今後の課題としたい。
  • どのくらいの汚泥量に対してどのくらいの貝殻が必要か。また、使用後の貝殻をどのように取り扱うことを考えているか。
  • ⇒10 Lの余剰汚泥に対して150 gの貝殻を充填して連続実験を行った。理論上、1 Lの余剰汚泥に対する反応で溶解する貝殻は1 g程度である。また、貝殻充填ホルダに充填する貝殻層が厚くなることで電気抵抗が上がるため、ホルダはできるだけ細い構造として、貝殻を過剰量充填することを避けたかったが、細くし過ぎるとホルダが折れる可能性が出てくるため、ホルダは現在の構造とした。
     充填した貝殻は溶解させ、減量する貝殻分を補充していく方法で運用を考えているため、使用後に貝殻を取り出して何かに用いることは想定していないが、どれくらいの頻度でどれくらいの貝殻を補充していくのか等どのようなオペレーションが必要となるかは今後の課題としたい。
  • 実験で使用した貝殻粉の粒子サイズはどのくらいか。最適な大きさはあるか。
  • ⇒粒子サイズは0.3~0.5 mmとした。これは貝殻の保持に用いたナイロンメッシュのサイズ(0.14 mm)を下回らない程度としたためである。また、ナイロンメッシュと陽極の間隔が短いところで1 mmであるため、この間隔に収まるよう粒子サイズを調整した。
  • 炭酸カルシウム(薬品)ではなく、貝殻を使うメリットは何か。廃棄物となる貝殻の有効活用のためか。
  • ⇒廃棄される貝殻を有効活用したい一心で研究を行っている。薬品を使用しても貝殻と同様の反応がみられると考えられる。
  • 鳥取大学周辺で廃棄される貝殻の問題があったか。
  • ⇒ローカルニュースでそのような問題が取り上げられていた。また学生時代の経験から貝殻を活用したいと考えていた。
  • 貝殻を使用する際に特別な前処理は必要となるか。
  • ⇒必要ない。実験上風乾を行い、条件を統一させる処理はしている。
  • 貝殻の種類は何が良いか。
  • ⇒鳥取大学の近くになる湖山池でシジミが獲れるため、まずはシジミの貝殻を使用していた。現在はカキ・アサリ・ホタテでも検討中。日本で消費量の多い様々な貝殻で試してみたいと考えている。
  • 講演中の様子(現地会場)
    講演中の様子(Zoom)
    TOP