公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第50回水環境懇話会 議事録(令和3年8月25日)

松村 隆司 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
インフラストラクチャー・アドバイザリーグループ
シニアマネージャー

 第50回水環境懇話会では、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の松村隆司氏をお招きし、人口減少時代の水道料金のゆくえと対策についてお話いただいた。その後の質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われた。

1.経歴紹介

2004年3月に京都大学大学院工学研究科を修了し、同年4月、株式会社荏原製作所(現:水ing株式会社)に入社された。2013年、EY新日本有限責任監査法人に入社、現在はEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社インフラストラクチャー・アドバイザリーグループのシニアマネージャーとしてご活躍されている。水道事業・下水道事業・ガス事業等のインフラ経営を専門とされており、これまでに、コンセッション導入支援をはじめとしたPPP/PFIアドバイザリー業務、中央省庁における上下水道関連の政策アドバイザリー業務等に従事されている。

2.講演及び討論内容

 前半は水道事業経営の現状とともに、各メディアでも大きな話題となった水道料金の値上げ予測についてご説明いただき、後半は今後の水道事業に対して何ができるかをご自身の取組みとともにご紹介いただいた。

①データでみる水道事業経営の現状
水道事業経営の現状について、様々なデータを基にご説明いただいた。
  • 水道の年間有収水量は直近の9年間で約6%減少している。有収水量の減少要因としては、人口減少や節水の他に、大口利用者の地下水移行などの影響も大きいと推察される。
  • 料金回収率でみると、全体の41%の水道事業者が原価割れしている。給水原価が高くなるにつれて原価割れをしている事業者が多くなっており、給水原価の高い事業者は料金を上げづらい実情があると考えられる。
  • 末端給水と簡易水道の給水原価を比較すると、簡易水道の方が原価は高い。この差は減価償却費及び支払利息によるものが大きく、国庫補助等によって賄っている状態である。
  • 厚生労働省によると、今後30年間の水道事業の投資額は、過去10年の平均1兆1千億円/年から1兆6千億円/年に増加する見込みである。
  • 各自治体の職員数を分析すると、上水道事業全体の50%が職員10名以下、60%が技術職員5名以下、73%が水道技術管理者有資格者数5名以下である。技術継承、経営改革、コストダウンなどが求められているが、何より人員不足をどうにかして欲しいという意見を聞くことが多い。
  • 今後も水道施設全体の更新需要は増加し続けるが、現状の人員数では増加する事業量に対応できなくなる見込みである。
  • ②水道料金のゆくえ
    2021年3月に公表された人口減少時代の水道料金に関する研究結果について、ご説明いただいた。
  • 水の安全保障戦略機構事務局との共同研究で、2015年に開始した。全自治体の水道料金がどう増加していくかを分析する土台作りを目的としたものであり、今回の推計で第3回目である。
  • 将来の予測に当たっては、前提条件の設定が非常に重要であり、可能な限り客観的な設定を行う必要がある。今回の推計では、補助金・繰入金の減少、水道施設の更新投資需要の増加とそれに伴う借入の増加・支払利息の増加等を仮定している。
  • 2043年度までに94%の事業体で水道料金の値上げが必要となる。
  • 全国の20 m3使用時の水道料金は、2018年度の3,225円/月から、2043年度には4,642円/月に増加し、平均の値上げ率は43%となる。
  • 給水人口が少ないほど、人口密度が低いほど、料金値上げ率は高くなる傾向がある。
  • 水道事業体間の水道料金の格差は、現在の9.1倍から2043年度には24.9倍に広がる。
  • ③私たちに何ができるか
    持続可能な上下水道事業の実現に向けて、必要となる取組みやその事例についてご紹介いただいた。
  • 経営管理はPDCAサイクルを回して運用していくことが重要だが、事業体ごとの習慣・制度などに起因する障壁があり、適切に運用していくことが困難な場合がある。経営戦略を実用性のあるものとする手法として、①定量的な目標を設定すること、②財務担当と技術担当ですり合わせを行い、内部合意形成を行うこと、③経営改革を進める仕組みを作ることが重要である。
  • フランスではわずか17項目の経営指標(KPI)によって毎年度モニタリングが行われており、コンセッションを実施している民間事業者も同様の項目を報告する義務がある。項目数が少なく簡便で、成果を示す指標に絞られていることが特徴的である。
  • 自治体同士の連携以外にも、共同出資会社を広域的な水道業務の受け皿主体として活用するなど、広域化の「担い手のあり方」の選択肢が広がっている。秋田県の下水道事業では、第三者組織によって県と市町村の業務を広域的に補完する体制の構築が検討されている。
  • 浜松市下水道事業では、県から譲渡された下水処理施設の維持管理・運営を行う人員を補うためにコンセッションを導入した。現在、事業開始から4年目が経過し、長期契約だからこその修繕の内製化や独自設備の増設によるライフサイクルコストの削減がされている。
  • 他事業との連携として、ドイツでは自治体が100%出資で設立する公益事業会社(シュタットベルケ)が活用されている。経営の効率化がなされる他、利益の出ている事業と出ていない事業を同時に運営することで、両事業が継続できるようになるなどのメリットがある。経営層には民間事業者出身の職員が多く、新規事業の開拓などに精力的に取り組んでいる場合が多い。
  • 上下水道の効率化の手法としては、ICTの導入などのデジタル化が挙げられる。しかし、取り扱える人材がいない、情報基盤が不足している、データの取り扱いの法律が整備されていない等、テクノロジー面以外の課題も多く残っている。
  • 経営課題は、技術、経営、人材の課題が入り組み複雑化している。水道の公益性・公共性の責任は水道事業者が持ち続けつつ、様々な業種の人間がコラボレーションしながら、新しい業務形態を模索していくことが重要である。
  •  質疑応答では、Zoomのチャット機能を利用し、活発な議論がなされた。一部として、以下を挙げる。
  • 小規模事業体において、維持管理業務を委託している場合でも、技術職員は確保しなくてはいけないのか。
    ⇒公共だけで人員を確保する必要はないが、根本的なところで確保しておくべき技術力は存在すると考えている。浄水場の性能発注やアセットマネジメントなどの委託を行った際、民間事業者の提案を審査できる能力は水道事業者に必要である。しかし、具体的に必要な人数については個別の事業体でも把握できていないのが実態である。
  • テレワークの動きが今後も進み、地方で仕事をする人が増えれば、全国的な料金値上げ率は下がるのか?
    ⇒個別の事業体で見れば、料金値上げ率は下げられると想定されるが、全国の規模で見れば水道施設の更新にお金がかかることに変わりはないので、全国平均の料金値上げ率に大きな影響はないと考えられる。
  • 講演中の様子(Zoomにて開催)
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